生活習慣病CKD透析回避プラザ|生活習慣病、慢性腎臓病(CKD)、慢性腎不全、人工透析、血液浄化療法等について情報を発信しています。生活習慣病を改善し、腎臓病を減らし、透析を回避することを目指しています。様々に手を尽くしても透析療法を始めた方には健康で長生き、自立し、自分で歩けるが目標です。

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コディネ 2012年夏季号

健康で長生きするめには必要な最も根本的なことは何ですか?

 人に限らず生物は呼吸をし、心臓を動かし、食べ物を食べ、老廃物を尿や便にして外に出していますね。これは誰でも知っています。呼吸は酸素を取り込み、炭酸ガスを外に捨てるために行われます。心臓は血液を身体の隅々まで送り届けるために動いています。この血液には酸素、栄養素を溶かし込んでいます。これらを細胞のレベルまで送った後は炭酸ガスや尿の成分などの老廃物を酸素の送り先で受け取って、肺や腎臓に戻って外に捨てられます。また、食べ物は消化管で粉々の栄養素になって身体に吸収されますが、吸収された栄養素は血液に乗って肝臓や身体の隅々の細胞に運ばれます。
 すなわち、血液は生きるために必要な全てのものを運ぶために不可欠な液体です。これを容れているのは血管です。血管はすべての臓器を結んでおり、身体全体に共通していますから、最も重要と言えます。しかも、これらの血管のうち、動脈は全てが血液を流す単なるパイプとして存在するだけではありません。身体の隅々に至るまで血液を送り込むために自らもポンプのように動いているのです。
 だから、健康で長生きするめには必要な最も根本的なことは血管の年齢、それもご自分の動脈の年齢を知ることです。

イヌリンクリアランスの実測により動脈年齢が分かります

 仮に動脈硬化が非常に悪くても病気にならなければ、生命には余り関係しません。しかし、心筋梗塞になったり、脳梗塞になったり、腎臓病になったりしたら大変です。これらの病気は生命に直結したり、腎臓病のように透析療法が必要になったりします。
腎臓は尿を作り、老廃物を実に効率よく捨てるところです。だから、沢山の血液が集まります。しかも、その血液は精密機械の中を流れるようなものなのです。動脈の異常が起きれば、すぐさまに老廃物を捨てるという働きに支障が出てきます。動脈が老化したり、実際の年齢以上に硬化しただけでも働きが鈍ったり、タンパク質を動脈の壁から漏らしたりします。ところが性悪なことには、すぐにご主人様には報告しません。密かに不具合を処置しようとします。適切であれば、良いのですが、多くは不適切で、おまけに隠蔽工作までするのです。
 これを白日の下にさらけ出し、ご主人様の健康回復のチャンスとなる情報を提供すのがイヌリンクリアランスという検査です。しかも、年齢を重ねることによって、イヌリンクリアランスは低下するかもこれまでの研究で明らかになっています。それ故、イヌリンクリアランスは、単に腎機能検査であった、慢性腎臓病の重症度を決定するだけではなく、動脈年齢もわかる検査なのです。

まずは動脈年齢を類推ことです。そのために、どのような検査法がありますか?

 現在、広く行われている検査は、PWV,ABI、FMD、頸動脈エコーなどです。
 PWV(pulse wave velocity)は、脈波伝播速度を測り、ABI(ankle brachial index )は足関節上腕血圧比を求め、FMD(Flow Mediated Dilation)は血流依存性血管拡張反応をみる検査法です。 頸動脈エコーでは内頸動脈の壁の厚さやアテロ-ムの存在の有無などを視覚的に確認することができます。これらの検査の詳細は,今回は述べませんが、いずれも血管(動脈)の硬さ、詰まり具合を見るために必要な検査です。
どれも動脈年齢は想像できますが、やや大掴みに病気の存在を推察するに過ぎず、何となく、現実味に乏しい印象を持っているのは私だけではないように思います。もっと直接的に病気の存在の有無、重症度が分かったほうが目標も決まり、対策を立て易い筈です。腎動脈が老齢化し、末期腎臓病になれば透析療法の助けが必要になってしまいます。それは困りますね。
 それではどうすればよいのでしょうか?

イヌリンクリアランスについて説明しましょう

少し、話は難しくなりますが、ゆっくり読んでいただければ、そんなに難しくはありません。
 まず、基本的な原理と言葉の意味、イヌリンという製剤の特徴について話します。
 身体の中に入れても、生物活性を有しない安定な物質のままでいてくれて、時がたつと、そのまま腎臓の糸球体という毛細血管のような動脈の壁からのみ濾過という単純な方法で体外に排出される物質があればよいのです。そうすれば、それを生体に負荷し,血中と尿中の濃度変化を測定することによって糸球体という動脈の壁の働きを評価できることになります。この働きは動脈の壁の状態に依存しますので、働きをみることは動脈の壁の状態を推し量ることになるのです。
 だから、イヌリンクリアランスはGFR(glomeruklar filtration rate)と呼ばれています。

そのような好都合な物質が本当にあるのですか?

 あるのです。そのような物質がチコリ(日本名;菊苦菜・キクニナガ)の根から抽出され,多糖類の一種で、イヌリン(分子量3,000~8,000、平均5,200)と呼ばれています.

チコリ
【分類】多年生草本
【学名】Cichorium intybus
【英名】Chiory
【和名】キクニガナ(菊苦菜)
【原産地】北ヨーロッパ

イヌリンは、果糖が直鎖上に結合し、その末端にブドウ糖が付加された平均分子量3000~8000の多糖類です。

普段よく食べているタマネギ、ゴボウなどといった多くの植物に存在します。
キクイモやチコリには特に多く含まれています。

初耳! どうしてそんなに私たちの健康を知るために好都合な物質があるのに、これまで使われていなかったのですか?

 現在でも簡易的に実施されているクレアチニン・クリアランス(CCr; creatinine clearance)という検査と異なり,イヌリン溶解液を調整するために1時間以上を要するという手間と、2時間近く点滴静脈注射しなくてはいけないという時間の制約に加えて、点滴静脈注射の間に二度の採血、採尿が必要という患者負担があるという制約があります。そして、何よりもこれまで使われていた製剤は動物実験用でした。それをきちんと調査し、成分も吟味して、人に使用可能な医薬品に仕上げた製薬会社があったのです。その会社が沢山の努力の末、平成24年4月にやっとのことで、健康保険という公的負担の適応検査になったのです。いわば、先端医療と言えるのです。

実際にはどのようにして実施するのですか?
 下の図のように、検査前に500ml、検査開始後に180mlの飲水、イヌリン溶解液の90分かけた点滴静脈注射をします。
点滴は、初回量として、150mLを1時間に300mLの速度で30分間、次いで維持量として150mLを1時間に100mLの速度で90分間点滴静注します。

イヌリンクリアランスとクレアチンクリアランスの違い

イヌリンクリアランス(GFR)とクレアチニンクリアランス(CCr)はどちらも腎機能検査として位置づけられていて、図2のようにCCrはGFRの0.715倍といわれていますが、全く異質のものと考えてください。それはイヌリンクリアランスが文字通り、腎臓の糸球体という動脈の働きと構造のみを表現しているのに対して、クレアチニンクリアランスは糸球体だけでなく、糸球体に続く尿細管からの分泌という機能の影響も受けるという事実によります。
 筆者は、蛋白摂取量が過剰であったり、糖尿病の患者さんでは、イヌリンクリアランスとクレアチニンクリアランスの差が大きくなる傾向があるとの印象を持っており、適正蛋白摂取量を評価するための指標としてイヌリンクリアランスとクレアチニンクリアランスの両者を求めることが臨床的に有用と考えています。


堀尾 勝、今井圓裕、安田宜成、他;わが国におけるCKD対策の新たな展開~日本腎臓学会日本人のGFR推算式プロジェクト.第51回 日本腎臓学会学術総会(福岡)、2008年5月30日

イヌリンクリアランスとeGFRの違い

 慢性腎臓病(CKD;Chronic Kidney Diseas)の診断定義および病期分類の基準になっているのはGFRです。その理由はこれまで述べてきたようにGFRは腎臓の働きを示し、腎臓病の重症度が分かるだけでなく、動脈年齢も想像できるからです。
この推算GFRは、所詮、実測ではありませんので、真の値と±20ml/min以上も解離する可能性があります。CKDと診断し、きちんと治療しなくてはいけないのに、GFRは正常と判断され、見逃されてしまったり、その逆も起きたりなど、大変問題が多いのです。このことは、日本腎臓学会のプロジェクト「日本人のGFR推算式」でも明らかにされました。これは、血清クレアチニンが糸球体機能を反映しているわけではないということに起因しています。血清クレアチニンは腎臓糸球体の動脈障害が高度なほど、糸球体の下にある尿細管上皮細胞からの分泌機構が亢進するなどの影響を受けることが明らかにされています。更には、血清クレアチニン値は筋肉量、摂取蛋白量でも影響を受けます。高齢者や女性では特にその傾向が強くなります。
血清クレアチニン値から推測されるeGFRはあくまでも推算値にすぎません。実測GFRを求めないといけません。
幸い我が国では公的補助によって、実測GFR、すなわちイヌリンクリアランスを求めることが可能です。
是非この検査を受け、腎機能だけでなく、血管年齢、動脈年齢を確認してください。

ところが、世間ではeGFRという指標が使われています。どうしてでしょうか?

 それは、イヌリンクリアランスという検査は測定手技が煩雑で、準備を含めて2時間以上を要するからなど、理由はこれまで述べてきた通りです。従来から実施されてきたクレアチニンクリアランスが適切ではないことも既に述べたとおりです。
 だからといって、放置すれば、慢性腎臓病(CKD)の早期発見、早期治療につながらないだけでなく、不健康加齢の増加を野放しにすることになります。そこで、考え出されたのが実測GFRの値をもとにして血清クレアチニン値と年齢で作られたGFRの推算式です。今や、GFRは、この推算式で求められたeGFR(推算GFR)で代用してもよいということで国際的統一見解になっています。
 実際の計算式は下記であるが、MDRD計算式をもとにして、日本腎臓学会が全国763名を対象として実測GFR(イヌリンクリアランス)と血清クレアチニン値、年齢から日本人向けに作成されたものです。

男性  eGFR = 194 × 血清クレアチニン値(mg/dl)^-1.094×年齢^-0.287
女性  男性の推算式に女性係数0.739を掛ける.

その他の腎臓のクリアランス検査

 健康保険による診療報酬の対象検査としては、チオ硫酸クリアランス、EDTAクリアランス、MAG3クリアランスなどがあります。チオ硫酸クリアランスはイヌリンクリアランス程の精度は期待できません。EDTAクリアランス、MAG3クリアランスは放射性同位元素を使用しなくてはいけません。このため、どれも、利便性に乏しく、ほとんど実施されていません。