透析医療には通常2本の針を穿刺し、その穿刺時に伴う痛みは大きな苦痛のひとつである。これを軽減することは生涯にわたって、血液透析療法を受けることが定めとなっている末期慢性腎不全の患者さんにとってはこの上ない苦痛の一つになっている。
私たちは、このバスキュラーアクセス穿刺時の痛みを軽減する方法として皮膚冷却法を開発する意欲的なプロジェクトに参加するという幸運を得たので、その有用性について報告する。
対象
医療法人社団靱生会メディカルプラザ篠崎駅西口および社会福祉法人仁生社江戸川病院にて維持透析中の比較的安定した年齢42~89歳で実施し同意の得られた慢性腎不全患者30名(男性22名、女性8名)を対象とした(一連の検討終了後反復使用のために10名を新規に追加して総合計40名)。うち、20名は 単回使用とし、うち5名は反復使用した(一連の検討終了後反復使用のために10名を新規追加)。反復使用例は全例がペンレス、キシロカインスプレーなどの麻酔薬をバスキュラーアクセス穿刺に先だって、無痛目的に使用した。
方法
穿刺部位は従来通りとし、皮膚冷却は動静脈の区別は考慮せずとした。反復使用例は、皮膚冷却の場合はペンレス、キシロカインスプレー使用せず、皮膚冷却しない側についてはペンレス、キシロカインスプレーを使用した。
穿刺は皮膚冷却装置で穿刺部位を23℃以下に冷やしたことを確認してから、通常と同じように行った。
評価はVASスケールを用いて想像できる最大の痛みを100とし、痛みがなしを0としたとき、皮膚冷却をして穿刺を行った時の痛みの数値を聞いて評価した。
一連の検討終了後反復使用のために10名を新規追加しているが、反復使用は9回の連続使用とし、静脈側のみの使用とした。穿刺時痛の評価は動脈側との比較も加えたものとし、想像できる最大の痛みを100とし、痛みがなしを0としたVASスケールを用いた。
成績
VASスケール60点以下に疼痛が緩和された症例は、単回穿刺例、反復使用はそれぞれ、30例中24例(80%)、のべ55例中54例(98.2%)であった。
一連の検討終了後の反復使用評価では、60点以下に疼痛が緩和された症例は10例中9例に及んだ。
考案ならびに結語
以上の成績から皮膚冷却は単回使用でも著明な有効性は認められ、反復使用により更に慣れ効果も手伝って、更に有用性が高められる傾向にあった。皮膚冷却による穿刺困難例は認められなかった。
そもそも、ペルチェ素子の動作原理は、N型半導体とP型半導体を組み合わせて、電流を流すと、N→P接合部分では吸熱が、P→N接合部分では放熱が起きるという現象である。寒冷物を置き、冷熱の拡散によって、局所を冷却する方法とは異なっており、疼痛神経終末端をいわばピンポイントで効率的に冷却し、神経伝道遮断効果が発揮できるものと推察された。
今後は装置全体を消毒布で覆うなど、安心安全に配慮した方策を講ずることも必要になると考える。日々の透析医療における穿刺時痛は人としての尊厳さえも脅かす恐れがある。
これに対して、ムツウ戦士は、単回使用以上に、反復使用により疼痛を緩和する効果が発揮されると推察され、このことは日々つらい思いをしている患者さんの負担軽減につながると容易に想像される。一刻も早く、日常臨床に応用されることを願っている。
しかるに、ここへきて、「穿刺時痛」という言葉の定義に始まって、その使用を妨げるかのような動きがあるように感じられる。「穿刺時痛」は「穿刺時痛」である。機器製作者の動きが鈍っているのである。どのような力が動いているのは謎であるが、個人的な損得で動いているとすれば、断じて許しがたく、ムツウ戦士の名付け親である私としても慚愧に堪えない。