生活習慣病CKD透析回避プラザ|生活習慣病、慢性腎臓病(CKD)、慢性腎不全、人工透析、血液浄化療法等について情報を発信しています。生活習慣病を改善し、腎臓病を減らし、透析を回避することを目指しています。様々に手を尽くしても透析療法を始めた方には健康で長生き、自立し、自分で歩けるが目標です。

 

口は災いの元」「口は災いの門」と申しまして、不用意な発言で身を滅ぼすとか、言葉が自らに災難をもたらしかなない事への戒めのことわざがあります。これに類した外国の諺に「沈黙は金 雄弁は銀」というものもあります。これらは、うかつに言葉を発するべきではないという戒めです。

ところが、2012年11月15日のNHKクローズアップ現代では、記録的な長寿で話題となった双子姉妹のぎんさんのお子さんの4姉妹の長寿の秘訣が話題になっていました。彼女たちの会話にその答えが有るようでした。すなわち、脳血流をみると、初めての人との普通の会話では特に増えない血流が、4姉妹が会話し出したら脳の血流が著しく増えるというのです。ボケと突っ込みでわいわいがやがや楽しく会話するのが長寿をもたらすというのです。「口は幸せの元」「口は幸せの門」「沈黙は銀 雄弁は金」というわけです。よくしゃべる人は長生きするというのです。女性が男性より平均寿命が長いのは、コミュニケーションの量が関係していると主張する人もいるくらいです。

逆に、話し相手のいない独り暮らしの高齢者は、老け込むスピードが速いこともよく知られていますので、「口は幸せの門」というべきかもしれません。

この特別企画号を執筆するにあたって、大いに参考にさせていただいた斉藤一郎先生の著書「不老は口から~アンチエイジング最前線~光文社(2005)」では、先生は著書の冒頭であなたの老化は「口」しだい、口をよく使う人は健康であると述べられています。

まさにその通りです。ぎんさんの4姉妹の場合の口は、楽しそうに話すであり、心に思ったことを面白くなるように考え、どんどん発展させ、話題も次々と見つけて話すと言うことなのです。口全体、思考回路を動かすということですが、その上に、口腔を清潔にし、種々手入れを怠らないようにすると、老化防止のためには鬼に金棒の生活習慣の確立という訳です。口は老化防止の最前線なのです。口腔ケアはそれで全てが解決するかもしれない最重要戦略の一つなのです。

さて、当然、食べる、飲むは生命維持の基礎です。そんなわかりきった話をするつもりはありません。本稿では何故、口全体を動かすということが大切なのかと言うことについて、お話しします。思考回路を回転させることの重要性は別の機会にしましょう。

 

口をもぐもぐ動かしてみよう

さあ、ガムでもお口に入れて少しお行儀は悪くなりますが、もぐもぐしてみて下さい。

どうなりますか?まずは歯で噛みますね。食べ物を噛むときはと言いますが、噛むためには顎の筋肉、口の周りの筋肉、ベロの筋肉が伸びたり縮んだりしています。そして、間もなく唾液が出てくると思います。この三つのことが非常に重要です。これらの機能が低下するということは、すなわち口の機能が低下することであり、老化の始まりなのです。

まず、自分の歯で食事を摂れていますか?義歯はありますか?ご自分の歯いくつありますか?しっかりかみ砕いてから飲み込んでいますか?ベロをしっかり動かして飲み込んでいますか?唾液は出ますか?口の渇き易くないですか?

これらが少しでもあれば、お口の機能は低下し始めているか、既に進行しています。それこそ「口は災いの門」に変じたという訳です。

 

今、あなたはご自分の歯がいくつありますか?

確かに年を取って自分の歯が減ってきている人を多く見かけます。

平成11年の全国調査では、「親知らず」を除いて28本あった歯が大凡ですが、40~44歳で26.2本、50~54歳で23.6本、60~64歳で19.99本、70~74歳で12.44本だったということです。想像以上に自分の歯を喪失している人が多いのです。このため、厚生労働省と日本歯科医師会は「8020運動」という80歳になっても自分の歯を20本は持とうという運動です。ちなみに私は今66歳で自分の歯は26本です。しっかり、大切にしてゆく積もりです。

そもそも、歯が抜けるのは、歯そのものに問題があるというより、それを支える歯肉と歯に異常があります。これらの原因の大部分は歯周病です。歯周病は生活習慣病のひとつでして、非常に重要なので、これについては後でじっくりと解説したいと思います。

 

しっかり噛んで食べていますか?食べ物が粉々になり、ネトネトになるまで噛めていますか?

しっかり嚙む。それも食べ物が原型を留めないほど粉砕することはこれから私が述べるほとんど全てに共通して大切なことです。だから自分自身への判定は曖昧ではいけません。

無論、しっかりと自分の歯肉の状況にあった義歯を作ることが大切ですが、自分の歯を長持ちさせて、自分の歯で噛み続けられるようにすることはもっと大切だと思います。

 

 

これまでの問いに少しでも当てはまるところがある方はこれから先もどうぞ、お読み下さい。全く当てはまらない方もしっかりお読み下さい

 

何故、自分の歯が残っていることが大切か

それは、自分の歯こそが物をしかりかみ砕ける頼もしい味方であり、そのような状況にあると言うことは歯肉が健康だと言うことです。歯肉が健康だと言うことは案外厄介者の歯周病になっていない、罹っていても軽症にすんでいるということを意味しているのです。歯周病については後述することは既に述べたとおりです。

 

何故、しっかり噛んで食べることが大切か

まず、咀嚼という行為のもつ意義を考えてみましょう。

●粉砕・膨潤・pHコントロール……食べ物を喉で呑み込まれ易くし、その後に続く消化管を通過し易いように粉砕します。更には、粉砕には効率よく後で述べるエネルギーに変換させるために、早くも口腔内で始まる次に述べる消化行程に必要です。また、食べ物と唾液をよく混ぜ合わせることになります。これにより、食べ物は液化し、胃や腸での分解促進に役立ちます。食べ物の水素濃度pHは酸性、アルカリ性のどちらに偏らず、中和状態になりますので、その結果、胸焼け(食道炎)やびらん性胃炎を防ぐことができます。

●消化……我々の主食の一要素で重要なエネルギー源であるご飯やパンなどの炭水化物(デンプン質)は口の中で唾液に含まれている消化酵素のαアミラーゼによって、長鎖の断片またはオリゴ糖に分解されます。ご飯を食べて、しっかりとかみ砕くと甘みがでてくるはこのためです。ついでながら、もう少しでんぷんの運命を述べておきましょう。かみ砕かれた食物は、唾液とともに胃に運ばれ、次は膵臓から小腸に分泌された別のα-アミラーゼによって消化されます。粉々になり、最終的に単糖(グルコース)へと分解されると、腸管から吸収され、筋肉、肝臓など、全ての細胞で活動に必要なエネルギーを自らが持つ解糖系に入り、エネルギー(ATP)生成に使われます。なお、グルコースは糖を構成する基本的な単位で、よく耳にするグリコーゲンはグルコースが何個もつながったものです。

●殺菌……唾液には抗菌作用を担う物質として、ラクトフェリン、リゾチーム、ラクトペルオキシターゼ、免疫グロブリンなどが含まれています。これらの物質は細菌やウイルスを殺す働きを持っていますので、しっかり噛むことで,唾液に含まれるこれらの抗菌物質と食べ物を混じり合わせることで、外部からの病原菌の侵入を抑えるのです。口の中の雑菌の繁殖を防いでいるのです。唾液の生理機能については、後で改めて説明します。

●腸管蠕動、膵臓機能活発化……腸管蠕動を活発化させ、正常便通の維持に有用です。しっかり咀嚼により消化管ホルモンであるグレリンの分泌が増えるとの研究報告もあります。膵臓ホルモンのガストリン分泌が増えるとの指摘もあります。ちなみに、グレリンは成長ホルモンの分泌を促進し、中枢性或いは末梢性に食欲を促進させ、オレキシンという覚醒ペプチドを活性化するという機能を持っています。朝食はしっかりと嚙んで食べ、歯や歯肉をブラッシングすることがその日一日の活動には欠かさない習慣だというわけです。また、主に胃の幽門前庭部に存在するG細胞から分泌されるホルモン。ガストリンは胃主細胞からのペプシノゲン分泌促進、胃壁細胞からの胃酸分泌促進、インスリン分泌促進などの作用が知られています。よく嚙むことにより、細胞再生や血糖コントロールなどの機能をも高めることができるのです。

●解毒(デトックス)……30秒以上の咀嚼によって、食品中の各種発癌物質(亜硝酸ナトリウム、フラバス、ベンゾピレンなど)によって引き起こされる細胞変異を消失させ、解毒作用、抗がん作用を発揮するという報告があります。従って、逆に食べ物をよく噛まずに飲み込むことにより、これらの発癌物質がそのまま体内に侵入することになりますから、それらが長期間にわたって蓄積すると、癌の発症へとつながる恐れがあるのです。

●脳細胞賦活化…「噛む」という行為が脳を大いに刺激することが知られています。意識して噛むことによって、認知機能と深く関係する前頭前野の活性化が誘発されるという事実があるのです。前頭前野は、思考や創造性を担う脳の最高中枢と考えられ、生きていくための意欲や、情動に基づく記憶、実行機能などをつかさどっています。このことも後述しましょう。

 

健康加齢は「つばぜり合い」してでもゲット

 

はただの水ではない、本当の役割を知って欲しい

ついさっきまで、咀嚼は食べ物の粉砕・pHコントロール、消化、抗菌、消化管・膵臓機能活発化、解毒、脳細胞賦活化などの意味があると述べてきました。唾液はこれら全てに関わっています。1日に分泌される量も1.5~2リットルですから、半端な量ではありません。

ここでは、特に重要な「消化」「抗菌」「粘膜保護」「粘膜修復」「歯の保護・再石灰化」「止血」「咀嚼継続」の7作用について述べたいと思います。

 

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